再婚には踏ん切れない
すごくいい感じの人がいて、そういう関係ではないんだけど、俺のことを好きでいてくれるという気持ちは聞いている。
よく遊びに来るので娘もすごく懐いていて、「お姉ちゃんがママになってくれたらいいな」とか言ってる(本人の前では言わせない)。そのたびに「お姉ちゃんは、パパなんかよりもっと素敵な男の人と出会って結婚するよ」と言うと、娘は
「そうだよねー」と笑いながら、ちょっと残念そうに言う。
俺も悪くは思っていない。むしろ大好きだ。とても気立ての良い女性で、娘にも優しいし、危ないことをしたときなんかは毅然と叱ったりもしてくれる。結婚すれば良い家庭が築けるんじゃないかとは思う。
でも踏ん切れない。結婚すればいつかは別れが来るわけで、もうあんな悲しい思いをするのは嫌だ。俺が先に死ねば問題ないのかも知れないけど、相手にも悲しい思いをさせるのかと思うと再婚には踏ん切れない。
何より、俺には娘がいないし、結婚すらしたことがない。
その相手だって空想の産物だ。
無職だし、今日こそは部屋から出なきゃとは思っているんだけど。
Aさんのリコーダー
中学生の頃、クラスのマドンナ的存在のAさんのリコーダーを、誰もいない放課後に
コッソリと舐めた。
ちょっと臭かったが、それがかえって興奮させる要素になり、身体をブルブル震わせながら多幸感に包まれていた。
次の日、よくつるんでいる男友達2人とAさんの話題になった。
友達の1人はAさんの熱狂的なファンだった。
Aさんの話は次第に盛り上がり、ファンである友達が、
「・・・俺、実はAさんのリコーダーの先っぽを自分のと取り替えたんだよね(笑)」と言った。
俺は寸分の狂いも無い美しい右ストレートをそいつの顔面にお見舞いした。
「ごめん、でも人に迷惑をかけることだけはして欲しくなかった。」
と俺は涙ながらに語った。
そいつは殴られた鼻を押さえながら、
「ありがとう、目が覚めたよ。」
と、涙目になりつつも嬉しそうに微笑んだ。
友達のもう一人は
「お前カッコいいな。」
と誉めてくれた。
それ以来、俺はその2人から尊敬される存在となり、同時に物凄く慎重な性格になった。
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