「おなか、あんまり空いてないんだっけ?」
なんて言い出そう、私から言い出さなければ、でもなんて言えば。
分からない、分からないよ、どうしようどうしよう、なんと言えば。
困っています、実は仕送りが届かなくて、
即物的なお願いの言葉ばかりぐるぐると頭を回た。
嫌な顔をして帰るだろうか、この人はよく笑うし、笑って断るんだろうか。
蒸し暑い季節に差し掛かりお店の中のエアコンはよく効いていた。
送られてくる風がピリピリと私の頬に刺さる。
「お待たせしました」
そこでやっと、目の前の人が私の飲み物を頼んでくれたことに気がついた。
肘をついて、やれやれ、といった顔をしていた。
そんなにガチガチじゃあこっちまで緊張しちゃうでしょ。
ご、めんなさい・・・。
乾杯を促される。目の前の人に倣ってグラスに口をつけた。甘い。
カルアミルク、飲んだことある?飲みやすいでしょ。
取ってつけたような優しそうな顔でやっぱり笑っていた。
嫌な顔をするところが想像つかない。
言い出したいことが喉の奥に押し込まれて言葉の形をなくしていく。
意味だけが膨らんで鼻の奥を押し上げてきた。
グラスの中で斜めになるラテ色の液体の先にいる人に目を向けられなかった。
予備校、通ってるんだっけ?忙しそうだよね。
はい・・・中々、A貰えなくて。周りはみんな上手だし個性もあるし。
少しづつ、話をしていたと思う。
聞かれたことに答えるのが精一杯でとても会話と呼べたものじゃなかった。
それでもカラカラになった喉を満たすのに1杯おかわりをさせてもらった。
大変だね。今日はちゃんと一人で帰れる?
何の話の流れだったか。言葉が刺さった。
ああ、面白くないから帰れと言われたのだと、
と慣れないお酒でぼんやりする頭で理解した。
次に会うことはきっとない。
ごめんなさい。
違うよ、いいよ。
え?
私、何を話した?話してない。
何が、と聞き返して嫌な気持ちにさせてしまいそうでそれ以上何も言えない。
そのあと私の目は、その人の指や喉元やスーツのシワばかり追ってた。
これ、隣で飲もうかな。いいよね。
断れない立場と状況、なのに別に嫌じゃなかった。